最適なメディアミックスに向けて
■最適な予算配分を行うためのマーケティング施策の効果測定
まず初めにマーケティングの効果の中でも、消費者のリアクションについて考えるにあたって、あらためてマーケティングの効果とは何かを整理しておきます。各マーケティング施策は戦略に沿って、特定の目的を達成するために活用されます。例えば、若年層向けの新商品を発売する場合、若年層をターゲットに、商品を認知してもらうことを目的として広告出稿をする、というように。そして、ここでの目的/ゴールは商品の認知、となりますが、最終的な目的は商品を購入してもらうことです。ニールセンでは、こうしたマーケティングの効果を最大化するためのフレームワークとして3つのRを活用しています。
3つのR
① Reach:リーチ 「ターゲットにリーチできたのか?」 ② Resonance:レゾナンス 「共感を得られたのか?」 ③ Reaction:リアクション 「期待した行動をもたらしたのか?」
マーケティング施策の効果を3つのRに分解し、それぞれのフェーズを最適化していくことで、各プロモーションとマーケティング活動全体を最適化していくというものになります。(①リーチと②レゾナンスについては、過去のメールマガジンでご紹介しておりますので、そちらをご参照ください。)今回のテーマである③リアクションとは、正しいターゲットにメッセージが届き、目的としていた共感を得られ、その結果として消費者がとった行動になります。
近年デジタルマーケティング施策への投資の増加に伴い、「デジタル施策にはどの程度予算を割けばよいのだろうか?」、「デジタル施策の中でどのメニューが最も投資対効果(ROI)が高いのだろうか」といった疑問を解消したい担当者も多いのではないでしょうか。こうした疑問に答えを出すのが、マーケティング施策に対するリアクション計測の最も重要な役割になります。リアクションの計測方法としては、様々な手法があります。今回は古くから活用されているマーケティングミックスモデリング(以下MMM)と、マルチタッチアトリビューション(以下MTA)についてご紹介したいと思います。
■売上を最大化させるためのMMM
MMMは、売上に影響していると考えられる様々な施策やその他の要因に関するデータと実際の売上のデータとの関係性を統計モデルにより算出します。この売上に影響する要因のうち、企業としてコントロールできない天候や他社の新製品ローンチなどの要因を除いた、広告出稿や価格戦略、店頭プロモーション等の効果として「売上への貢献度」と、効率として「ROI」を把握することで、将来の売上高を最大化するための最適な予算配分を考える材料とします。
図表1はMMMの分析の一例です。まずは売上額全体への各プロモーションの貢献度を把握します。この例では、TVによる効果が大きいことがわかります。次に、貢献度を投資額で割って、各メディアのROIを算出します。この例では、インターネットのROIが高いことがわかります。そして、売上への貢献を横軸、ROIを縦軸、投資額をバブルサイズとしてマッピングします。この結果をもとに、「インターネットは投資対効果が良いので投資額を増やし、売上への貢献を大きくしよう(オレンジの矢印の方向)」、「TVは売上への貢献は大きいが、費用対効果が悪いので、少し投資額を減らしてROIが向上するようにしよう(青い矢印の方向)」といった判断を行うことができます。仮にこの結果を基に来季の予算を検討する場合は、各活動の予算を変更した場合の売上シミュレーションを行い、最適な予算配分を決定していきます。
今回は、大きなカテゴリを例として説明していますが、実際にはインターネット広告でもメニューごとにブレイクダウンしたり、TV広告も素材ごと、15秒広告と30秒広告とで効果を比較したりすることもできます。また、広告の効果測定以外にも、PR活動やBtoBビジネスにおける営業活動の効果測定にも活用することができます。
■MTAによりリアルタイムに最適化を図る時代へ
MTAもMMMと同じく、売上に対する各マーケティング施策の効果を測定します。違いは、データの集め方にあります。MMMでは一般的に、一定期間の各施策に関するデータを収集し分析を行います。例えば、週次の売上高、TV のGRP、インターネット広告のインプレッション数を集め、回帰分析などにより売上との関係性を分析します。一方、MTAでは、個人が商品を購入するまでの間のタッチポイントにおける接触情報をデータとして蓄積し、分析を行います(図表2)。バナー広告とSNSを見て、ブランドサイトを訪問した後に購入した人や検索してブランドサイトを訪問した後に購入した人、といった個人レベルのデータをリアルタイムで分析します。接触したタイミングも把握できる為、最初に接触したのか、購入直前に接触したのかといった情報も考慮した形でモデルを組み、それぞれのタッチポイントの売上への貢献度を算出することも可能です。
MMMもMTAも、古くから実施されてきている分析になります。例えば、CRMデータの分析では、これまでもMTAが行われてきました。そうした中で、近年MTAに注目が集まっている理由は2つあります。まずは様々なデータが収集、蓄積できるようになった点です。例えば、一昔前のCRMでは、DMの発送履歴やメールマガジンの購読履歴、キャンペーン申込履歴などを元に分析していましたが、近年では、様々なデジタルプロモーションの結果を紐付けられるようになりました。そして、もう一つの理由は、変化が速いデジタル環境下で、リアルタイムでのプロモーションの改善が求められるようになってきた点です。一定期間のデータを蓄積して分析を行うMMMは、年間全体の効果の把握などには適していますが、リアルタイムでの対応には向いていません。 また、MTAでは個人を特定しているため、MMMではできなかった以下のような活用も可能になります。 ・購入までの詳細なカスタマージャーニーの把握 ・分析結果をもとに個人にカスタマイズしたレコメンデーション、プロモーション
■これからのマーケティングの効果測定の行方
以上、各マーケティング施策に対する消費者のリアクションという効果の把握方法として、MMMおよびMTAについて簡単に見てきました。最後に、これらの分析を実施する上で、最も肝心なポイントについて触れ、今後の効果測定の行方について考えたいと思います。最も肝心なポイントとは、これらの分析を行ううえで必要なデータをどのように集めるのかという点です。どちらの分析においても、結果の精度を高めるには、売上に関連していそうな情報をできるだけ多く、正確に収集・蓄積することが重要になります。特にMTAでは個人に紐付けた形でのデータ収集となるため、広告主だけで蓄積できるものではありません。自社のCRMデータやサイト訪問履歴、ダイレクトメールの発送履歴などに加えて、クッキー情報をもとにサードパーティデータと紐付けることも必要になります。現段階では自社で保有しているデータとデジタルデータを紐付けていくことが重要になりますが、今後はTVなどのオフライン情報もIoTなどが進むことにより収集、紐付けが可能になってくることが想定されます。これからのマーケティング活動で成功していくには、データを収集・蓄積し各施策の売上への貢献度とROIを明らかにし、最適なメディアミックスを考えていくことが重要です。
(ニールセン シニアアナリスト 高木 史朗)
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