店舗への集客ツールとしてアプリを活用するうえでの重要なポイント
■スマートフォンユーザーの4人に1人がマクドナルドのアプリを利用
まず、店舗運営事業者が提供しているアプリの利用状況を分析するにあたり、200万人以上が利用している人気の高いアプリをみてみましょう(図表1)。飲食や雑貨、衣料など様々な店舗運営事業者が提供するアプリがあるなか、最も利用率が高かったのはマクドナルドのアプリで、スマートフォン利用者の約4人に1人が利用していました。次いで利用率が高いのは無印良品やガスト、ユニクロで、それぞれ5~6%の人が利用していました。実店舗の店舗数や来店頻度など従来からの利用者の裾野の広さ、価格帯が手頃かどうかなど様々な要因が影響していると考えられますが、マクドナルドアプリを利用している人が際立って多いことがわかります。
図表1: スマートフォンからの店舗アプリ別利用率 2015年2月
Source: スマートフォン:Nielsen Mobile NetView アプリからの利用 ※Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女
■ガストや無印良品、ユニクロは、プッシュ通知により金曜日に利用者が増加
次に、各アプリの曜日ごとの利用状況をみると、マクドナルドは曜日ごとの利用者数に大きな変化はみられませんが、無印良品とガストは金曜日、ユニクロは火曜日と金曜日に利用者数が多くなっていました(図表2)。マクドナルドは常時多様なクーポンを提供することで曜日に関係なく集客を図っているのに対して、他の3社は金曜日にプッシュ通知を行うことにより土日の集客を狙っていることがわかります(なお、ユニクロ以外のアプリは、毎週同じ曜日にプッシュ通知を行っているわけではありません)。
図表2: 曜日別 日次平均利用者割合(DAU/MAU) 2015年2月
Source: スマートフォン:Nielsen Mobile NetView アプリからの利用 ※Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女 ※曜日別平均利用者割合は、日次平均利用者数(DAU)を月次平均利用者数(MAU)で割った値
■プッシュ通知により無印良品は平常時の4倍以上、ユニクロは6倍以上の人が利用
では、プッシュ通知を行った日と行わなかった日では、利用者数にどの程度違いがあるのでしょうか。急上昇している曜日(プッシュ通知が行われたと想定される日)が特定の曜日だけではないため、日別の平均訪問者数の1.5倍以上の利用者数があった日をプッシュ通知が行われた日と仮定して、プッシュ通知のあった日と無かった日の訪問者数を比較してみましょう(図表3)。プッシュ通知が行われていた日のガスト、無印良品、ユニクロの3アプリを比較すると、無印良品やユニクロはガストよりも、プッシュ通知時と平常時の利用者数の差が大きくなっていました。プッシュ通知により無印良品では平常時の4倍以上、ユニクロでは6倍以上の人がアプリを利用しており、プッシュ通知が大きな利用促進効果を持っていることがわかります。
図表3: プッシュ通知時、平常時別 日次平均利用者割合(DAU/MAU)2015年2月
Source: スマートフォン:Nielsen Mobile NetView アプリからの利用 ※Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女 ※曜日別平均利用者割合は、日次平均利用者数(DAU)を月次平均利用者数(MAU)で割った値 ※プッシュ通知時は日次利用者数の平均値の1.5倍以上の人が利用した日、平常時は平均の1.5倍未満の人が利用した日
■月に1~3回しか利用しない人は全体の約60%
最後に各アプリの利用頻度別の利用者数分布をみてみましょう(図表4)。ここでは、大きな特徴が2点見られます。1点目は、各社とも月に1回しか使わないユーザーと月に2~3回しか使わないユーザーがそれぞれ約30%程度を占めている点です。プッシュ通知の回数に関係なく、低頻度利用者が一定数存在していることがわかります。2点目は、ユニクロは月に4~9回利用している人の割合が、マクドナルドや無印良品、ガストよりも高い一方で、月に10回以上利用する人の割合が低い点です。マクドナルドや無印良品、ガストでは、プッシュ通知の回数に関係なく頻繁に利用するユーザーが一定数いることがうかがえます。ユニクロは、チラシ情報の提供やオンラインストアに力を入れているのに対して、マクドナルドや無印良品、ガストは店舗で使用するクーポンを提供していることなど、アプリの内容が影響していると考えられます。
図表4: 月間利用頻度別利用者数分布 2015年2月
Source: スマートフォン:Nielsen Mobile NetView アプリからの利用 ※Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女
■データ分析に基づいたアプリ活用が重要
今回は店舗運営事業者が提供しているアプリの利用状況をみてきましたが、特にプッシュ通知の頻度やタイミングにより、アプリの利用状況に大きな違いが見られました。商品カテゴリーの違いなど様々な要因を考慮したうえで、各社がそれぞれの目的に合わせてプッシュ通知を活用している結果が表れていると言えます。
例えば今回の分析期間では、マクドナルドアプリはプッシュ通知を行っていませんでしたが、先日リリースされた新しいアプリにはプッシュ通知機能が追加されました。今後の運用においては、プッシュ通知により利用を止めてしまうユーザー数を把握していく必要があるでしょう。また、その他にも店舗運営事業者にとっては、3か月以上利用していない休眠客の数やプッシュ通知後に店舗で商品を購入した人の割合など、詳細に情報を分析しながら顧客との長期的な関係性を築いていくことが、今後非常に重要になってきます。
また、新規ユーザーを獲得したり、離反客を呼び戻したりする際には、競合アプリを含む市場全体のアプリ利用状況を把握することが重要です。競合アプリ利用者の特徴や自社アプリの離反客が利用しているアプリの特徴などを把握したうえで、自社アプリの運用を企画していく必要があるでしょう。
(ニールセン シニアアナリスト 高木 史朗)
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