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MEDIA WEEKLY 2022年9月27日~2022年10月5日号                  



INSIGHT

成長を求める広告主に対するメディアの対応策

ニールセン EVP兼オーディエンスアウトカム製品担当グローバルヘッドTina Wilson

ニールセンの 2022 Annual Marketing Reportの調査対象となった企業のマーケティング担当者にとり、ブランド認知と新規顧客獲得の重要性は、今年さらに高まっています。これらの優先課題に加え、全てのマーケティング担当者はROIの成長確保を強く意識しています。メディアを提供する企業に目を向けると、同一メディアチャネル内、そして隣接チャネルにおける競争はさらに激化しており、メディア企業として成長を実現するためには、市場における新たなニュアンスをくみ取る必要があります。

従来、メディア企業は成長のために以下の2つの実績のある戦略に依存していました。

  • 広告主の広告予算をより多く獲得する(例 シェアを増やす)
  • 自らが提供する広告枠の価格を上げる(例 CPMを上げる)

いずれの戦略においても、メディア企業は自らが提供するメディアの魅力を証明することで、適切な広告価格を設定し、最終的には広告予算のシェアを増やすことが重要です。

理想的な世界では、メディアの売り手は両方の戦略を組み合わせて、永続的に成長することを目指します。しかし、それが可能な状況というのは、ほとんどありません。そこで、この2つの選択肢を検討する場合、メディアの売り手は、自社のメディアが他の選択肢と比較してどのような状況にあるかを評価することから始める必要があります。ただし、比較対象は同一チャネルや比較しやすいチャネルに限定するべきではありません。

例を挙げると、あるメディア企業が販売するテレビ広告は、業界のベンチマークを上回るパフォーマンスを発揮しているかもしれません。しかしチャネルやプラットフォーム効果の評価においては、狭い視野で考えすぎることは危険です。事実、テレビは依然として広告の主要なチャネルですが、テレビからのROIは過去2、3年で減少しています。これは、テレビ広告の買い手と売り手がテレビを好意的に捉え続けている一方で、このチャネルが価格圧力に直面している可能性を示唆しています。

一方、SNSの有料広告の短期ROIは、世界レベルでテレビの1.7倍となっていますが、ブランドのSNS有料広告への支出はテレビの2/3以下です。ROIという点でSNSは価格決定力があるため、SNS広告枠を販売するメディア企業は、CPMの値上げを正当化できます。しかし、ROI パフォーマンスはマーケットやサブチャネルによって異なるため、全体集計データに基づいてのみの意思決定は避けるべきでしょう。結果を最大化するためには詳細に着目し、ケースバイケースの判断を行うことが重要となります。

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チャネルやプラットフォームのパフォーマンス評価に加え、メディアを購入する企業の多くは過少支出により、ブレークスルーできずにいることをメディア企業は心に留めておくべきでしょう。言い換えれば、広告主は目標とするROIを達成できない場合、広告支出を抑制する可能性があります。広告主のメディア予算計画に対するニールセンのクロスチャネル分析データを見ると、計画されたメディア投資の50%は、効果を発揮するには不足していることが明らかになっています。これはメディア企業にとって、チャンスを意味します。

メディアの過少支出は、全世界で見受けられる現象です。過少支出と判定された企業における、過少支出率の中央値は52%です。これは1回のプランニングでは是正されないかもしれませんが、是正できる企業は、ROIを50.3%(中央値)向上する機会を手に入れることになります。メディア支出の増加を後押しするこのデータを用いれば、メディア企業は広告主やメディア取引関係者に対し、予算配分を改善して目標とするリターンを達成する手助けができると考えられます。

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広告主が求めるROIを考慮すると、メディア企業は長期および短期戦略を念頭に、自らのプラットフォームやチャネルの効果を検証する必要があります。通常、チャネルは長期と短期、両方の目標の同時達成に寄与しづらいため、両方に対し、自らが提供するメディアのインパクトを測定することが極めて重要となります。ニールセンのマーケティングミックスモデリングによると、チャネルが収益とブランド指標の両方に貢献する確率は36%に過ぎません。

広告主は売上と認知の向上を重視することから、広告主にとってのメディア価値は、ブランド認知とコンバージョンに対するパフォーマンスに影響されます。チャネルは通常、ブランド認知の向上とコンバージョンの向上を同時に実現するわけではないことを顧客に理解してもらうことで、メディアの販売者は、自らの価値を証明し、顧客からの支出を維持・拡大するという2つの機会を得ることが可能になります。 

どちらか片方のビジネス戦略のインパクトのみを測定するメディア企業は、測定結果が平均以下となる可能性があります。対してブランド認知と売上の両方に対して測定を行うメディア企業は大方の場合、ポジティブな結果を得られるでしょう。

上記2つの目的に対する測定の重要性が最も高い地域はアメリカで、チャネルが両方の目的に対し、平均以上の結果を出す確率は20%となっています。一方でアジアパシフィックにおいては、同確率は42% と高くなっています。メディア企業がブランド構築と販売結果に対するメディアの両方のインパクトを測定すれば、いずれかに特化した測定から得られた不本意な結果をカバーすることができます。

多くの企業のマーケティング担当者は測定ツールを活用して、チャネルミックスや配分比率を決定する傾向にあります。メディア企業はROIデータを利用して自社メディアの魅力を評価し、価格設定や広告シェアの観点から最適なポジションを確保することができます。どのプラットフォームやチャンネルが広告主の短期的・長期的な目標を達成するかを理解することで、メディアの販売者はメディアの価値と魅力をアピールする機会を拡大することができます。




INSIGHT 2

共感を得られるブランドの構築

ニールセンCMO Jamie Moldafsky

Forbesへの寄稿記事から)

マーケティングの世界では、「ブランド」という言葉が頻繁に使われていますが、実はブランドの明快な定義は存在しません。一般的にブランドは「評判」、「提供価値」、「カルチャー」に関連付けられていますが、Jeff Bezos がブランドとは何かを的確に言い当てています。
「あなたのブランドとは、あなたのいない所で、人々があなたについて言うことだ」。

言い換えれば、ブランドとは人々がブランドをどのように解釈、体験、知覚するかということです。

この定義を踏まえると、企業のマーケティング担当者は顧客のエンゲージメント獲得、ビジネス成長の加速など、多くの重要な役割を果たす必要があります。しかし最も重要な役割は、共通の目的のもと組織を団結させ、顧客やマーケットの共感を獲得し、あらゆるタッチポイントにおいて企業の差別化に貢献する、説得力のあるブランドストーリーの定義と創造及びそれを継続的に意図的に行うことです。

今日の消費者や企業には数多くの選択肢があり、それぞれが予算に応じて日々行動しています。複雑で動的な現在の市場環境において、企業は自らの価値やパーパス、さらには提供する独自の商品・サービスを明確にすることが重要となります。すなわち企業の存在価値、提供するもの、そしてどのようにこれらを実現し、提供しているかが問われます。ブランド構築には時間がかかりますが、全ての企業組織は立ち上げ、変革、拡大などのフェーズを問わず、以下の4つの原則を貫くべきと考えます。



ブランドアイデンティティの明確化

ブランドアイデンティティは、企業の存在価値と全ての行動を反映します。ブランドが強ければ強いほど、ブランドに対する消費者や見込み顧客、そして従業員のエンゲージメントが獲得しやすくなります。従って、企業のマーケティング担当者と役員は自らの企業のミッション、パーパスと中心価値の共通理解をもとに協調することが極めて重要となります。企業の対外的なペルソナや外部に向けたプレゼンテーションは、社内の指針を映し出すことで一貫性が確保されます。長い歴史を持つブランドは皆、強固な基盤を確立しています。ブランドの根底がぶれず、一貫しているからこそ、従業員や顧客の信頼やロイヤルティを獲得できているのです。

明快なパーパスを基盤とすることで、企業はブランドアイデンティティを明確化し、そのアイデンティティに基づく戦略や行動を展開することが可能になります。これに加え、ブランドのターゲットオーディエンス、キーメッセージ、ブランドの行動や提供価値がさらに明確になります。ニールセンは2020年に消費行動調査部門の事業を売却した後、「Powering a better media future for all people」(全ての生活者に対し、より明るいメディアの未来を切り開く)という新たなパーパスを打ち出しました。このパーパスにはニールセンの役割(powering、切り開く)、目標(a better media future、より明るいメディアの未来)、価値(all people、全ての生活者、すなわちインクルージョン)が含まれている他、「audience is everything」(オーディエンスが全て)というニールセンのタグラインにも反映されています。このタグラインは、外部に対するニールセンブランドの要約となっています。

強力なパーパスはブランドを明確化し、ブランドが達成すべき目標を掲げています。パーパスを支持し、忠実に守ることで、ブランドは長期的な信憑性や信頼を獲得し、企業組織は市場における発言権を獲得し、他社との差別化を図ることが可能になります。消費者のニーズやウォンツを把握し、市場における機会を特定できれば、マーケティング担当者は、マーケットリサーチやデータを活用したブランドやビジネス活動の最適化ができるようになります。



マーケットリサーチやデータの活用

筆者はオーディエンス測定を用いたメディアプランニング、マーケティング最適化ソリューションを提供する企業のCMOとして、ブランドに対する消費者の期待は高まり続けており、マーケティング担当者は消費者に後れをとらないよう、必死になっているような印象を受けています。マクロ、ミクロの両方で日々変化が起きている現在の環境において、マーケティング担当者は消費者の態度や行動の速い変化を正確に把握する必要があります。

マーケットリサーチや行動データマイニングは、継続的な活動として捉えるべきと考えます。企業はこれらの活動を通じて、消費者のニーズや期待を継続的にモニタリングできるからです。マーケティング担当者は、実施するキャンペーンやプロモーションに対する消費者の反応を注視し、消費者マインドを踏まえて、キャンペーンやプロモーションの内容を適宜変更することが求められます。SNSなどを通じた消費者との双方向の対話を確立できれば、マーケティング担当者はオーディエンスに合わせたメッセージを調整しやすくなります。

健全なブランドにとって、定量・定性分析から得られたインサイトは、ブランディングキャンペーンにおける単発の活動として捉えられるべきではありません。マーケティング担当者は四半期毎のブランド調査やパルス調査の実施を検討し、全キャンペーンを測定して、ブランドイメージや消費者行動に対するキャンペーンの影響を理解する必要があります。さらにはコールセンター、サービスチャネルやSNSから得られたインサイトを活用して、継続的なメッセージ調査を行うことの重要性も指摘したいと思います。



ブランドメッセージが真実であることを確認する

消費者、市場やブランド指標を継続的に把握した上で、ブランドが掲げる提供価値が確実に提供され、従業員がブランドメッセージを理解し、体現していることが大切です。ブランド構築において、消費者体験は重要かつ強力なピースとなります。

変化を余儀なくされるブランドは、キャンペーンやメッセージを通じて自らの変化を発信することに飛びつきやすくなるでしょう。危機的な状況に陥っている場合、変化の発信は必要となりますが、あくまでも「ブランドという存在」を明白に訴求することが望ましいでしょう。企業は掲げる価値に沿った行動を起こし、自らのコミットメントに対し、目に見える証拠を揃える必要があります。

企業が成功するためには、従業員のエンゲージメントが重要な要素となります。また、企業はブランドに忠実であることが求められます。従業員が企業のミッションや価値を信じ、自分事として捉えることができれば、筆者の経験ではそれが消費者にも伝わり、ブランドに対する消費者の信頼が深まります。従業員のエンゲージメントを維持するためには、マーケティング担当者は役員と共に、企業がブランドのミッションや価値に忠実であることを常に確認するべきです。企業がこのように行動していれば、その行動は組織全体に浸透します。



ブランドストーリーを広く共有する

上記全てが確認できた場合、ブランドに関するストーリーが求められます。従業員、顧客や見込み顧客など、全てのステークホルダーはブランドアドボケイト(支持者)となる可能性があるため、マーケティング担当者はこれらのステークホルダーがブランドを認知し、積極的に検討し、理想的にはブランドやその商品・サービスのファンになることを確実に推し進める必要があります。

マーケティング担当者は幅広いブランド認知や好意を構築すると同時に、適切なオーディエンス、キャンペーン内容、チャネルやメッセージを選択して、消費者の検討(理想的には購入)を後押ししなければなりません。スポンサーシップ、SNSやコミュニケーションなど、ブランドが主語となるメッセージやチャネルは存在しますが、ブランド構築と顧客獲得の両方の目的を目指す機会にも目を向けるべきです。従来の購入ファネルが凝縮され、ブランド構築とコンバージョンが同時、かつ相互に強化されるケースがしばしば見受けられるからです。

ブランドを構築してビジネスを成長し、好ましい評判を獲得することは、マーケティング担当者に求められる最も重要な役割です。規律をもってブランドのパーパスと提供価値を理解し、消費者の行動や考え方の変化をリアルタイムで把握することができれば、おのずと市場での成功が見えてくるでしょう。






INDUSTRY NEWS

Wall Street Journal (ウォールストリート・ジャーナル紙)

米Amazonの「Thursday Night Football」初回放送、1300万人超の視聴者を獲得

The Wall Street Journalは9月22日、Amazon Prime Video初となるNFLレギュラーシーズン中継番組「Thursday Night Football」の視聴に関するニールセンデータをレポート。同プラットフォームでの初回放送となったLos Angeles ChargersとKansas City Chiefsの試合中継は、約1300万人の視聴者を獲得した。同紙によると、ニールセンが発表した1300万人の視聴者にはAmazon Prime Videoでの視聴者に加え、スポーツバーなど家庭外での視聴者、NFLが運営するストリーミングサービスNFL+での視聴者が含まれる。  



MediaPost (広告・メディア専門ニュース)

米ローカルテレビ広告、OTA広告が引き続きトップ、OTT広告も急速に拡大

MediaPostは9月22日、米国におけるローカルテレビ局のOTT広告(デジタルで配信される広告)が急速に拡大、2022年の推定広告費は対前年比 +57% の20億ドル(2021年は13億ドル)となった。しかし、従来のOTA広告(従来型の放送形式の広告)の人気は根強く、広告収益は200億ドル超とレポート。米国のリサーチ&コンサルティング企業BIA Advisory Servicesによると、OTAローカルテレビ広告は引き続き2年サイクルでは増収傾向にあるものの、そのペースは明らかに緩やかになっている。OTA広告に関しては、2年に一度のサイクルで政治やオリンピックという大きなイベントに関連する買い付けが行われている。BIAの推定では、2022年のOTA広告費は204億ドル、2024年は211億ドル、2026年は219億ドル、対してOTT広告費は2024年には40% 増の28億ドル、2026年には21% 増となる34億ドルに達する見込み。



AdExchanger (データドリブンマーケティング情報

個人レベル測定への移行を進めるニールセン、Rokuとの提携を拡大

AdExchangerは9月30日、RokuはYouTubeに続き、「ニールセンの新たなFour-Screen Ad Deduplicationツールを採用して、リニアテレビとストリーミング動画に配信される広告測定を開始する2番目の主要CTVパブリッシャーになった」とレポート。Rokuとの提携拡大と同時に、ニールセンは世帯レベルから個人レベルの測定への移行を進めており、この動きを通じて、ニールセンはテレビ視聴測定の標準通貨というステータスを維持していく。ニールセンの製品管理担当SVP、Kim GilbertiはAd Exchangerに対し、「Nielsen ONEのローンチに向け、様々なスクリーンに対する比較可能性の確保に引き続き注力することで、プラットフォームはストリーミングとリニア番組視聴を、同一の指標と手法で測定することが可能になる」とコメント。


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