PERSPECTIVES
予算規模別のマーケティングROIを最大化する手法
マーケターにとって、2020年は転換の年となりました。事業に成功したブランドや企業は、創意工夫とスピードをもって社会の変化に上手く対応しましたが、変化はこれからも続くでしょう。多くの企業はポストコロナ時代に備えると同時に、2021年度の広告費削減によって離れてしまうことが予想される消費者の興味・関心を再び喚起する必要があります。ニューノーマルの時代、多くのブランドが市場への再参入を急ぐことで競争が激化し、広告の混雑具合が進行するとニールセンは予測しています。その結果、目標とするROIの達成を目指すマーケターは、新たな課題に直面するでしょう。
予算規模に関わらず、測定は全てのマーケターにとって共通の課題です。全世界のブランドは、より多くのクリーニングされたデータをより速く入手しようと先を争っています。 最近実施した調査によると、様々な予算規模のマーケターや複数の業種の関係者におけるマーケティングテクノロジーソリューションへの信頼度が低いことが判明しました。最もマーケティングテクノロジーソリューションへの信頼度が低かったのは日用消費財(FMCG)と消費財(CPG)企業、また、予算規模の小さいマーケターでした。
中小企業にとって朗報は、多くの近代的なマーケティングツールに手が届くようになったことでしょう。粒度の高いデータや拡張性の高いマーケティングソリューションは、大小様々なブランドにインサイトを提供し、リアルタイムの意思決定を支援します。急拡大するニーズに対応するべく、マーケターはマーケティングツールへの投資を増加し、マーケティング予算の適切な配分を確実に行っています。このような活動により、ブランドや企業間のデータナレッジのギャップは狭まり、中小規模の予算をかかえる企業は大企業と同じ土俵に立つことが可能になります。
手法 その1:マーケティング予算が中小規模のブランドや企業は、マーケティングテクノロジーに投資して大規模ブランドや企業と同じ土俵に立つべき
最近のデータによると、広告予算は上昇傾向にあるものの、多くの企業の2021年度広告予算は抑制されています。マーケティング目標の達成に向けた予算の活用方法は、予算規模によって明確に異なります。様々な規模の企業は、顧客の獲得とブランド認知を優先目標としていますが、中小規模のブランドが同じ目標を重視する可能性は22% 高くなっています。事実、大規模ブランドと比較すると、中小規模のブランドがパーソナライゼーションに投資する可能性は6倍、そしてパス・トゥー・パーチェスに投資する可能性は3倍高くなっています。大規模予算をかかえるマーケターも、顧客1人を獲得するコストを念頭に、顧客のロイヤリティを維持するために十分な投資を行っているか、自らに問う必要があるでしょう。
手法 その2:中規模予算の場合、パーソナライゼーションやパス・トゥー・パーチェスに投資して、顧客維持率を高めるべき
経済が活発化するにつれ、マーケターは様々なカテゴリーや地域で発生する不規則なリバウンドに注視し、スピーディに準備を進めることが求められます。新型コロナ感染拡大期間中、大規模予算を活用してマーケティングテクノロジーやアジャイルマーケティング手法に多額な投資を行ったブランドは、明らかに優位でした。不透明な時代において、マーケティングミックスへの予算配分などに対し、ダイナミックに対応することができたからです。対して予算が中小規模の企業は、より多くの制約下にあったはずです。
手法 その3:大規模予算を持つブランドは、広告費用最適化手法を強化するべき
マーケターが直面する新たな課題には、IDデータ検証・照合とクロスチャネル測定が含まれます。クッキーの廃止により、マーケターはよりファーストパーティデータに依存せざるを得なくなります。予算規模に関わらず、全てのブランドは適切なツールに投資を行うことで予算配分を最適化し、フルファネルでのメディアROIをより精緻に計測する必要があります。
上記以外にも、全予算規模のマーケターにとって有益な手法を以下にまとめました。

レポートの詳細や具体的なインサイトは、2021 Nielsen Marketing Report: Era of Adaptation (2021年ニールセン マーケティングレポート:アダプテーションの時代) をダウンロードしてご覧ください。
INSIGHT
ビジュアルコンテンツマーチャンダイジングの鍵となるパーソナライゼーション
ニールセン プロダクトマネジメント担当VP Kamran Lotfi
動画ストリーミング業界では、COVID-19 の感染が確認される以前から熾烈な競争が行われていました。そして 2020年、世界規模のパンデミックは動画ストリーミングサービスへの加入を加速し、生活者のメディア接触パターンを完全に変えてしまったと言えるでしょう。当初は一握りの知名度の高いスタートアップビジネスによって成り立っていた動画ストリーミング市場は、数百単位のサービスが乱立する激戦市場へと変化しました。今や生活者の動画視聴習慣は、各サービスが提供するコンテンツによって形成されています。
生活者がオンデマンドなライフスタイルに合致する選択肢になびく中、動画ストリーミング市場には新たな選択肢が次々と参入しています。コンテンツクリエイターやストリーミングプラットフォームが顧客を誘引し、維持するためには、魅力的なテレビ番組や映画を揃えるだけではもう不十分です。勿論、有名コンテンツのリリースや根強い人気を誇る動画のラインアップは、エンターテインメントファンを誘引するでしょう。しかし、これらのファンが新たなコンテンツを求め始めたらどうなるでしょうか。ファン達は、どのように新たに視聴したいコンテンツを選ぶのでしょうか?
人間は視覚に頼る生き物であるため、利用者体験は「読む内容」ではなく、「目で見た内容」によって大きく左右されます。コンテンツの選択肢をスクロールする際、人間の目は数百もの作品の中から魅力的と思える作品に焦点を合わせます。生活者にとって魅力的なコンテンツは限りなく存在しますが、ストリーミングで今後成功するために必要なのは優れたコンテンツだけではなく、魅力的なコンテンツへの「誘導」です。視聴者がコンテンツを見つけられるかどうかは、その誘導の有効性にかかっているのです。
視聴者がコンテンツを発見する上で、レコメンデーションや「お薦め」は確実に有用となるものの、動画コンテンツの視覚的な「目立ち」には寄与しません。また、これらは視聴者の「気分」にも直結していません。「百聞は一見にしかず」という諺があります。そして「一見するイメージ」がパーソナライズされていると、そのインパクトは飛躍的に増加します。
コンテンツ過多、生活者の「常にインターネットに接続している」ライフスタイル、そして複数のことを平行して行おうとする衝動は、生活者の注意持続時間に影響を及ぼし、我々は皆、興味が持てるものがないと関心をシャットアウトする傾向にあります。この傾向は、視聴者の関心獲得を競っている動画ストリーミングサービスやエンターテインメントプラットフォームにとって大きな課題となります。ニールセンが 2019年に実施した調査では、米国在住の成人による加入ストリーミングプラットフォームの検索時間は平均約7分で、興味が持てるコンテンツが見つからないと諦めてしまうという行動が確認されました。過去1年における動画ストリーミング市場の成長を鑑みると、生活者が今でも7分を費やして動画コンテンツを検索するかどうかは、疑わしいと言わざるをえません。個人的な勘では、検索にかける時間はせいぜい2-3分だと思います。
動画カルーセルというフォーマットは、動画コンテンツ配信プラットフォームにとっては店頭に相当します。訪問者は内容を「読む」ためではなく、視覚体験を求めてやって来ます。そこにパーソナライズされたイメージがあれば、プラットフォームのビジュアルマーチャンダイズが強化されます。例えば新しいコンテンツの配信がスタートし、配信プラットフォームはあらゆる手段でストリーミング視聴を獲得したいが、ひとつの代表的なイメージしか掲載していないとします。ひとつのイメージは、全てのオーディエンスにとって魅力的とは限りません。ある視聴者にとっては、コンテンツの主要テーマこそが魅力であり、別の視聴者にとっては番組の主なロケーションが魅力的な要素となります。もしプラットフォームが複数のイメージを掲載して嗜好の異なる視聴者にアピールすることができれば、動画カルーセルは顧客体験を強化する、パーソナライズされた店頭として機能します。
読者の皆さんの中には、パーソナライゼーションの効果に懐疑的な方もいるかも知れません。しかし、利用者の満足度を最大化すると同時に、主要ビジネス指標の達成が求められるエンターテインメントサービスプロバイダーにとって、利用者体験のパーソナライゼーションは新たな機会となります。動画ストリーミング市場の競争激化に伴い、今後は各プロバイダーが提供するコンテンツと視聴者エンゲージメントの獲得が最も重要視されるようになるでしょう。利用者が共感するイメージを目にすることができれば、コンテンツとのエンゲージメントが獲得できるでしょう。事実、米国上位5社の動画ストリーミングサービスがGracenoteと共同で最近実施したパイロットテストでは、パーソナライズされたイメージは視聴時間、視聴作品数、さらには動画視聴に直結するCTR (クリック率)の増加に貢献したことが明らかになりました。
 ニールセンのデータによると、米国における全世帯の77% はコネクテッドデバイスを 1台以上所有しており、動画ストリーミングコンテンツ視聴時間も右肩上がりに増加しています。2020年12月における動画ストリーミング視聴時間は1320億分超、これは動画ストリーミング視聴が可能な世帯の総テレビ視聴時間のほぼ 4分の1に相当します。動画ストリーミングに対する視聴者の高いエンゲージメントを考慮すると、自らのプラットフォーム上でエンゲージメントを獲得している視聴者を維持したい動画ストリーミングサービスプロバイダーは、あらゆる手段を使うことを惜しまないでしょう。
動画コンテンツに対する創意工夫を凝らしたビジュアルマーチャンダイジングは、視聴者のエンゲージメントや満足度の深化をもたらす新たな機会となります。全てのコンテンツは万人向けではないものの、コンテンツを視覚的に表すイメージをパーソナライズすることは、視聴者が「自分向け」と感じる番組や映画を発見する大きな手助けとなります。
INDUSTRY NEWS
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト)
Samsung、ニールセンデジタル広告視聴率データを顧客向けに提供を開始
スマートテレビから取得されるコンテンツ自動認識(ACR)データを提供する世界トップクラスの企業、Samsungは業界で定評のあるニールセンデジタル広告視聴率データを顧客向けに提供を開始する。5月13日に発表された内容によると、Samsung Electronicsの広告部門、Samsung AdsはニールセンのDigital Ad Ratings (デジタル広告視聴率)のライセンス契約に合意、今後は同社のアドバンスドビデオ広告インベントリーである Samsung TV Plusを購入する広告主や広告代理店に対し、ニールセンのデジタル広告視聴率データを提供する。
The Wall Street Journal (ウォールストリート・ジャーナル紙)l 米Amazon、MGM 買収
Amazon.com Inc. は、ハリウッドの映画製作会社 MGM Holdings を約90億ドルで買収する契約締結に向け、大詰めを迎えている。買収金額には、MGM の負債も含まれている。買収が実現すれば、サイレント映画の時代に設立された映画製作会社がECの巨人の動画ストリーミング資産に組み込まれることになる。買収契約は、速ければ 5月24日週に発表される見込み。上記の情報筋は、土壇場での買収契約破棄はないと想定している。(その後、26日に買収が正式に発表された) Amazon にとって、MGM の買収は同社の歴史上、2017年のWhole Foods 買収(買収金額 137億ドル)に次いで2番目に大きな買収案件となる。動画ストリーミング市場における競争激化によって一部の企業が統合を余儀なくされる中、大手企業はコンテンツ資産を増大して競争力を強化する必要があることから、今回の買収ではコンテンツのプレミアム価値が強調される形となった。
Variety (エンターテインメント業界ニュース) 米2021年アップフロント総括:プライムタイムからIPへの顕著なシフト
米国のテレビ業界は 5月17日週、オンラインで開催されたアップフロントにて、新番組の主演を務めるスター俳優の登場やティザー動画の上映など、派手なプレゼンテーションを広告主企業に対して実施した。2年前、ニューヨークにて対面形式で行われた最後のアップフロント以来、テレビ業界も環境の変化が引き起こした現実を直視せざるを得なかったのだろう。今年のアップフロントでは、プライムタイム放送番組の広告枠の熱心なセールスは影を潜め、メディアエコシステムや動画ストリーミングが話題の中心となった。また新たな傾向として、テレビネットワークは多様性やインクルージョンに対し、積極的な姿勢を示した。これは新型コロナウイルスが蔓延した昨年、人種差別が大きな話題となったことを反映している。

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