COVID-19 MEDIA INSIGHT
COVID-19 猛威の最中、全てのマーケターが自問するべきこと
Matt O'Grady, Global Commercial President, Nielsen Media
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために「動かない」ことが求められている昨今、外出を控えて自宅待機する消費者の意識や行動がブランドに影響を及ぼしている。広告予算の削減は短期的に経費の削減につながるが、ブランドの中長期的なレジリエンス(立ち直る力)には悪影響を及ぼすだろう。人類が未曽有の危機に直面する今、企業はどうやってブランドを守りながら利益をあげることができるのか? テレビは、企業やそのブランドに対する消費者のロイヤルティを向上させるのに優れた媒体だ。現在の社会情勢を踏まえ、マーケターは予算を削減しながら自社商品やサービスを買ってくれる生活者とのエンゲージメントを引き続き維持、強化しなければならない。このようにマーケティングやメディア計画の転換を迫られる背景には、「メディア接触の増加」と「広告予算の減少」という 2つの主なグローバルトレンドがある。
生活者によるメディア接触の増加 メディア接触は明らかに増加している。各国政府が国民に要請している「ステイホーム」により、全世界での動画コンテンツの視聴量はほぼ60%増加するとニールセンは予測している。ただし COVID-19感染状況や感染対策は国によって異なるため、テレビに対する生活者のエンゲージメント度合も様々だが、ひとつ確実に言えることは、COVID-19の感染拡大や自主隔離が進むと同時に、1視聴者当たりのニュースやエンターテインメント番組の視聴時間は長くなっている。

生活者のテレビ視聴時間が長くなっていることを受け、マーケターは以下を自らに問いかける必要がある。
1. どのように自社コンテンツに手を加え、新たなオーディエンスにリーチするべきか? ローカルエリア、新たなデモグラフィック属性や興味・関心を持つオーディエンスにリーチするための新たな戦略を構築することで、生活者の関心をより長く引き付けることが可能になる。
2. 「プライムタイム」の価値は変化しているか?ソーシャルディスタンスを取り入れる生活者にとって、「プライムタイム」は今後も夕食後の時間帯であり続けるか?生活者の視聴時間の変化に伴い、コンテンツを提供する側は新たな「プライムタイム」を念頭に置くべきだろう。また、生活者が是非視聴したいと思うコンテンツのタイプを検証する必要がある。
3. スポーツは、最も視聴者のエンゲージメントが強いテレビコンテンツ。スタジアムの閉鎖や試合のキャンセルが相次ぐ中、放送局はスポーツに取って代わるコンテンツの発掘を迫られている。例えばアメリカの人気ストックカーレース、NASCARはプロレーサーによるバーチャルレースをライブ配信するという試みを行い、第1回バーチャルレースを通じて、オーディエンスとの強いエンゲージメントを獲得した。過去のスポーツコンテンツ、eスポーツや家庭でできるエクササイズなど、自主隔離するオーディエンスをエンゲージする新たな方法は存在する。
広告量の減少 欧州におけるパンデミックの震源地となってしまったイタリア。同国の広告量に対するCOVID-19の影響を把握することで、マーケターはそれぞれの市場における広告量の運命を予測することができるだろう。ニールセンの広告統計Ad Intelによると、過去のテレビ広告量(2019年1月から3月8日と2020年同時期)の比較において、イタリアでは広告量が5%減少した。減少が著しかった業界はエンターテインメント(-42%)と運輸・観光(-67%)。英国でも同様の傾向が見受けられ、昨年同時期比の広告量は -3%。対してベルギーとオランダは若干の増加傾向にある(ベルギー +4.2%、オランダ +4.5%)。

興味深いことに、インドでは欧州でのテレビ広告量の傾向に対する「はずれ値」が計測されている。ロックダウンが開始した週(2020年3月14日週)、広告量は同年1月11日から31日と比べて13%増加した。増加を牽引したのはソーシャル広告(+147%)、食品・飲料(+36%)、銀行・金融投資(+47%)。ただし、広告量の増加と広告売上の増加は同レベルではなかった。
マーケターは以下の質問を自らに問いかけ、広告メッセージの見直しを行うべきではないか。
1. ブランドロイヤルティを醸成する広告を通じて、どのようにして一定の顧客を獲得するか?自社ブランドがコミュニティに貢献していることを発信する、あるいは自社商品の新たな使用法(レシピ、DIY、衛生、子供が夢中になる手作業など)を啓蒙することで、長期的に顧客の利用を増やすことができるのではないか。旅行業界が受けている大打撃を緩和するために、航空会社は各国の政府と組んで国外にいる自国民へのフライトの提供、キャンセル方針の変更、予約したフライトの延期やロイヤルティプログラムの期限延長などを行っている。
2. COVID-19という見えない敵を体験している生活者に対し、どのようにして自社ブランドとの関わりを持たせるか?3月8日にイタリアで掲載された鉄道サービスの広告では、人々が抱擁している様子が描かれていた。この広告を目にしたイタリアの様々なブランドは、一様にクリエイティブの変更に踏み切った。この事例はコンテンツを時勢に合わせて柔軟に変更すること、そして新たな顧客のニーズに応えることの重要性を示している。高齢者と医療従事者それぞれ専用の買い物時間帯の導入、配送料無料、買いだめ防止を目的とした購入個数制限などは、商品利益を増やす上で非常に有用だ。
COVID-19 は、メディアエコシステムに対しても深刻な脅威となっている。広告やコンテンツを通常とは異なる視点から見直すことで、マーケターはブランド戦略の軌道修正を行い、縮小傾向にある利益を回復することができる。
INDUSTRY NEWS
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト) ストリーミング動画配信のテレビ視聴時間に占める割合が23%に上昇、Disney+は「新興」ストリーミング配信プラットフォームの比率アップに貢献
最新のニールセンストリーミング動画配信メディアデータ分析によると、COVID-19の感染拡大に伴う屋内退避やテレワークという新たな生活者の行動は、過去1か月におけるテレビ総視聴時間に占める動画ストリーミング配信視聴時間の割合を押し上げている。アメリカのテレビ保有世帯における3月16日週の動画ストリーミング配信視聴時間の割合は23%、昨年同週の14% から大きく上昇した。 さらに同社のデータを見ると、動画ストリーミング配信トップ4(Netflix、YouTube、Amazon、Hulu)に対するDisney+ を含む動画ストリーミング配信「新興勢力」の割合も著しく上昇した。
Forbes (フォーブス誌) テレビのニュース番組、幼い視聴者を獲得
テレビ離れが進む若年層がニュース番組を視聴し始めている。原因は全世界で70万人以上の感染者、3万3000人以上の死者を出している世界規模のパンデミックだ。 ニールセンが分析した視聴データによると、2歳から17歳のローカルニュース番組視聴者数は、2月上旬から3月9日週にかけて20%増加、18歳から24歳の視聴者数は9.2%増。広告主がターゲットとする25歳から54歳の視聴者数は10%増加した。
Adweek (アドウィーク誌) 米ニューステレビ番組の視聴率が上昇、予想外の視聴者を獲得
アメリカではニューステレビ番組の視聴率が上昇、全国放送に加えてローカル放送のニュース番組も同様の傾向にある。アメリカの生活者は自らの居住地域におけるCOVID-19の影響を把握するために、今まで以上にローカルニュース番組を視聴している。過去の危機的状況における人間の行動心理を踏まえると、ローカルニュース番組の視聴増は想定の範囲内だ。 ニールセンが最近実施した分析によると、2月上旬から3月上旬までの間、ローカルニュース番組視聴は著しく増加した。
Reuters (ロイター通信) 米Microsoft、新型コロナウイルス発生後 Skype 利用者が 70%増
3月30日、Microsoft は同社のビデオ通話サービスSkypeの利用者数がひと月で70%増加、現在の利用者数は4000万人に達したと発表。新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅で過ごす生活者が増えたため。 さらに同社は法人向けサービスOffice 365を4月21日、Microsoft 365に再ブランディングする。Microsoft 365には、Windows PC、AndroidとXboxのスクリーンタイムを管理するアプリケーションなどが新たに搭載される。
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト) 米における総テレビ利用、直近で 18% 増
COVID-19 の影響で多くの生活者が自宅で過ごしていることにより、テレビ視聴が増加している。 ニールセンのデータによると、3月16日から 22日における総テレビ利用は前週比較で18% 増加した。 同時期におけるアメリカ在住でテレビを保有する生活者の総テレビ利用(Total Use of Television、TUT)は平均 24%。テレビ利用(TUT)とは、従来のテレビ放送番組のリアルタイムおよびタイムシフト視聴、またはスマートテレビアプリ、ゲーム機やその他デバイスを含むインターネット接続デバイス経由でのテレビ番組視聴を意味する。

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