INSIGHT
「外出禁止」:危機は消費者をメディア接触へと追い立てる
世界的で急速に感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により社会距離戦略(social distancing)、隔離または安全な場所への避難などの目的で自宅にこもる生活者が増えることで、メディア接触習慣は確実に変化する。事実、一部のケースでは自宅にこもることでコンテンツ視聴量がほぼ60%増加する可能性があり、場合によってはさらに増加することが予測される。現在、世界各国の消費者にはコンテンツやチャネルといった幅広い選択肢が与えられていることを考えると60%増という数字は大きな意味を持つ。 アメリカにおけるメディア接触は、既に過去最高を記録している。最新の ニールセン Total Audience report によると、アメリカの視聴者は1日当たりほぼ12時間をメディアプラットフォーム接触に費やしている。さらにはアメリカ在住の消費者の75%は動画ストリーミング配信サービスへのサブスクリプションやテレビ接続デバイスの利用を通じて、メディア選択肢の幅をさらに広げている。
 危機的状況での情報収集 吹雪、ハリケーンやパンデミックなどの危機的状況においては最新情報の入手、暇つぶし、気分転換、そして家族や友人との連絡などの目的で生活者のメディア接触は増える傾向にある。また危機的状況を乗り越えるために、食品や日用品など生活必需品の買い溜めが発生する。 消費者が危機的状況にどのように対応するかというインサイトを発掘するために、ニールセンは近年発生した2つの危機的事象における総テレビ利用(TUT、total TV usage)データを分析した。対象は2017年にテキサス州を襲ったハリケーン・ハービー、そして 2016年1月にアメリカで発生した大型吹雪。予想通り、両方のケースにおいてTUTレベルは著しく上昇した。 2017年8月、ハリケーン・ハービーはテキサス州ヒューストンに上陸した。ニールセンが実施したヒューストン市場の分析では、ハリケーン期間中のTUTはハリケーン前に比べて56%上昇、ハリケーンが去った後の期間と比べても40%高い結果となった。
 また 2016年1月23日の週末に発生した大吹雪によって、ニューヨークエリアでは2フィート(約61センチ)を超える積雪となり、都市機能が麻痺した。ニューヨークにおける吹雪が発生した土曜日のTUTを前週の土曜日と比較すると、TUTは45%上昇、翌週の土曜日と比較しても吹雪が発生した土曜日のTUTは49%高かった。 自宅に閉じ込められた生活者が視聴した主なコンテンツは映画、ニュースや一般的なテレビ番組。テレビ経由でのストリーミング配信は 61% 上昇した。生活者は暖かい室内でコンテンツのまとめ視聴や映画を楽しみ、最新ニュースをチェックしていた。
 COVID-19が視聴に与える影響:韓国とイタリアの事例 現在 COVID-19の影響を受けている地域の分析を行ったところ、類似する行動が明らかになった。例えば韓国では、2月初旬に同国初のCOVID-19発症が報道された後の数週間におけるテレビ視聴が増加した。個人のテレビ利用レベルを2月の2週目から感染者の増加が確認された 4週目にかけて比較すると、テレビ視聴は17%増加し、視聴者数では120万人増となった。2019年同時期でテレビ利用レベルの比較を行ったところ、増加は僅か1% だった。

イタリアでは同国の放送事業者が出資し、一元的に視聴率調査を実施しているAuditel のレポートによると、2月の第4週と第3週の比較においてテレビ視聴は6.5%増加し、感染者が最も多いロンバルディア地方でのテレビ視聴は約12%増加した。増加の主な要因として、ニュース視聴と自宅で過ごす時間の増加が挙げられる。
メディア接触に対するテレワークの影響 テクノロジーによってメディア環境の細分化が進行すると同時に、多くの企業は可能な場合、テレワークを推奨し始めている。多くの事例において、テレワークはオフィスの間接費用の削減や柔軟な勤務時間を可能にすると共に、テクノロジーに精通した人材の確保に貢献している。今回のCOVID-19や今後発生するかもしれない事象に対し、感染エリアに拠点を置く企業は従業員に対し、自宅で働くことを要請するようになるだろう。テレワークを実施することで、企業はアメリカ疾病管理予防センター(CDC)の勧告に沿って社会距離戦略を実行し、生産を続けることが可能になる。 ニールセンのデータによると、月曜日から金曜日までテレワークをする従業員は会社に通勤する従業員に比べ、週当たりのテレビ視聴時間が3時間以上長い(テレワーク従業員の週当たりテレビ視聴時間25時間2分に対し、非テレワーク従業員の週当たりテレビ視聴時間は21時間56分)。利用デバイスを見ると、テレワーク従業員の週当たりタブレット利用時間は非テレワーク従業員よりも長く、テレワークの4時間30分以上に対し、非テレワークは4時間。テレワーク従業員はオーディオメディアも聴取する傾向にあり、テレワークと非テレワーク従業員へのラジオのリーチは約95% とほぼ同等。 アメリカでCOVID-19の感染拡大を受けてより多くの企業がテレワークを認める方針を採用すると、自宅で仕事を行う従業員の視聴行動がメディア利用の増加を加速するだろう。
COVID-19に関するソーシャルでの話題 テレビやメディアのコネクティビティに加え、世界各国の生活者はソーシャルメディアを介して話題を共有し、連絡を取り合っている。またソーシャルは情報源でもあり、意見を声に出すメディアとしても活用されている。ニールセンのSocial Content Ratings データによると、2020年1月から2月にかけての「コロナウイルス」または「COVID-19」に関するソーシャルでの話題に関して、これらのキーワードを含むテレビ関連のツイート数はピーク時で11万件となった。
 COVID-19 の感染は全世界に拡大している。人類が初めて体験するウイルスは世界中の市場に影響を与え、いずれはメディアエコシステムにも影響を及ぼすだろう。広告主の広告やメディア投資を理解し、大きな損失が出ないよう手を打つことによってマージンの縮小を抑え、公衆衛生に関するメッセージの認知を高めることが可能ではないか。さらにはエンターテインメントを通じて、生活者の不安を一時的にでも取り除くことができれば幸いである。
INDUSTRY NEWS
The Motley Fool (個人投資家向け金融メディア) 米Netflixの最新「透明性」指標、投資家の評価は? Netflix が最近発表した「人気コンテンツランキング」、メディアにとっての利用価値はないが、視聴者にアピールする手段としては有効か?
Netfliやその他ストリーミング配信サービスが従来の有料テレビ放送に対抗し始めて以来、有料テレビ放送が受けた被害は加入者数や過去から受け継いできたテレビ利益だけではない。ニールセンが長年提供してきたテレビ視聴率など、テレビオーディエンスの計測も巻き添え被害にあったと言えるだろう。 以来、ニールセンはNetflixやAmazonなどのストリーミングサービス向けオーディエンス計測を念頭に新たな指標を策定、さらには同社のテレビ視聴率にデジタルテレビの数字も反映している。ニールセンのこのような努力にも関わらず、Netflixやその他ストリーミングサービスは独自のランキングや指標を発表している。特にNetflixは膨大なオーディエンス数を含む自社データを積極的に公表している。ニールセンやオブザーバー企業は同社のデータに対して異論を唱えているものの、自社データのお陰でNetflix は数多くの報道を獲得している。客観性が欠落した自社データを売りにするNetflix に対し、メディア企業や投資家は知識武装を始めている。Netflix が2020年に入って間もなく発表した新トラッキング指標に対し、The Motley Fool は最初に不満を表明したグループの一員だ。同社の指標はあまりにも緩く、全く利用価値がないと判断されたからだ。先月、Netflixは投資家やオブザーバーに対して新たな「トップ 10 リスト」を発表した。明らかに同社の顧客に向けた動きだが、投資家はこれをどう評価するべきか?
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト) 米 Digitas、NBCU、ViacomCBS、デジタルアップフロントを採用 コロナウイルスがパンデミックとして宣言されたことを受け、アメリカの Digitas、NBC Universal と ViacomCBS はライブの広告枠販売プレゼンテーションを中止、デジタルプレゼンテーションを採用する。Digitas は同社が主催するライブのニューフロント(NewFront)プレゼンテーションを 4月30日に予定、NBC Universal のライブアップフロントプレゼンテーションは 5月11日に計画されていた。Digitas、NBC Universal 共に、デジタルプレゼンテーションの日程と詳細は後日発表される。何とも皮肉なことに、事前に発表された Digitas のニューフロントプレゼンテーションのテーマは「We, The Disconnected」(断絶された人々)。同社は電子メールを通じて、このテーマは「かつてないほどに現実を表している」とコメント。ViacomCBS は動画でのアップフロント特別プレゼンテーションを制作し、5月13日にデジタルプラットフォームに投稿すると発表、当初はニューヨークのカーネギーホールでライブのアップフロントを同日に行う計画だった。 3月11日、アメリカのネット広告業界団体 Interactive Advertising Bureau(IAB)はオンラインでのニューフロントプレゼンテーションの実施を支援すると発表、またメディア・広告業界ニュースメディアの MediaVillage は、バーチャルアップフロントサイトの立ち上げを発表した。
THE WALL STREET JOURNAL Wall (ウォール・ストリート・ジャーナル紙) コロナウイルスで開幕延期の MLB、米スポーツテレビネットワークに打撃
NBA の放送権の支払いが迫り、広告収入機会損失とディストリビューターからのプレッシャーに直面する米テレビ放送ネットワーク
アメリカのスポーツテレビ番組は大きな問題に直面している。放送するスポーツコンテンツが無くなってしまったからだ。 24時間の間に NBA、NHL (ナショナルホッケーリーグ)、さらには MLB がコロナウイルスの感染拡大を受け、公式戦開幕を延期すると立て続けに発表した。NCAA (全米大学体育協会)も男女バスケットボールトーナメントのキャンセルに踏み切った。 各スポーツ団体の放送パートナー企業には、「死の灰」が降りかかることになりそうだ。アナリストやスポーツ放映権の取引に精通する筋の情報によると、NBAの試合を放送するネットワークは相当の広告収入損失に加え、巨額な放映権を債務として抱える可能性がある。
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト) 米の新プライバシー法、消費者による個人データの削除が可能に
共和党上院議員が導入した新たなプライバシー法は、カリフォルニア州で施行された抜本的な新施策などを含む大方の州法に優先される。 3月12日、カンザス州の共和党上院議員 Jerry Moran (ジェリー・モラン)によって発表された The Consumer Data Privacy and Security Act of 2020 (2020年消費者データプライバシーおよびセキュリティ法)により、企業は消費者による自らの個人データのアクセス、修正、削除を認めることが求められる。
CNET (テクノロジー&ビジネス情報メディアサイト) Disney Plus: 米 Disney 新ストリーミングサービスの全て
Disney が運営する動画ストリーミング配信サービス、Disney Plus はエンターテインメント界の巨人によるオンラインハブで、同社のほぼ全てのコンテンツをストリーミング視聴することが可能。Star Wars、Marvel、Pixar に加え、「Frozen 2」(邦題 「アナと雪の女王 2」)に代表される Disney 制作の家族向け映画やアニメーションが 6月末から配信され、さらには Foxの人気番組「The Simpsons」(邦題 「ザ・シンプソンズ」)などがラインアップに加わる。 同社は Disney Plus をホームエンターテインメントの未来として期待をかけており、Netflix や新たに登場するPeacock、Apple TV PlusやHBO Maxと鎬を削ることになる。

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