INSIGHTS
ビッグデータの有効活用を支えるデータサイエンス
ニールセン データサイエンス担当 VP Clem Thompson (クレム・トンプソン)
テレビの電源を入れる。ラジオを聴く。スマートフォンのアプリを使う。近所の店で夕食用の食材を買い、ネット通販でなくなりかけたシャンプーを購入する。これらは日々の生活の一部だが、デジタル化によって色々な物事が相互につながっている今日の世界では、生活者の日々の行動は貴重なデータポイントとなる。 日々の生活から取得するデータポイントを活用すれば、ブランドや企業のマーケターは生活者ニーズのより深い理解にもとづき、ニーズにより的確に応える施策を実施して、ビジネス成長を加速することができる。そのためには大量に発生するデータセットを解析の上、データの持つ意味を正しく理解することが必須となる。
情報化時代、生活者の行動からはサイズ、範囲共に莫大なデータが日々発生する。ニールセンはこれらのデータを計測する企業で、ニールセンが毎月収集するデータ量はテレビ視聴記録17億件、店舗取引件数67億件、オンラインインプレッション数に至っては年間1.6兆インプレッションを記録している。これらのデータを収集し、データ保全や個人のプライバシーを担保しながらデータを整理して意味のある情報に変換するには、専門的な知識やスキルが必要とされる。 ブランドやマーケターに新たなデータソースを提供するテクノロジーやプラットフォームは、データ計測やインサイトの発掘を支援する新たなツールや手法を次々と導入している。ここで注目すべきはデータサイエンティスト。データサイエンティストは生活者の行動から発生するビッグデータを解析、解釈する新たなデータソースや解析ツールを追求し、科学的な手法、プロセス、アルゴリズムやシステムを駆使して、雪だるまのように膨れ上がるデータポイントの集合体から貴重なインサイトを発掘する。 ニールセンでは約1,100名のデータサイエンティストがデータポイントという「点」をつなぐための有効で再現可能な手法を発見し、顧客がターゲットとする消費者に関するストーリーを紡いでいる。無限のデータポイントを入手する顧客に対し、データサイエンティストは個々のデータポイントをつなぐことによって、顧客の意思決定やビジネス成長に最も貢献するインプットを提供するという重要な役割を担っている。ニールセンのデータサイエンティストチームの一員として、私はデータを統合し、データポイントをつなぐための顧客向けカスタムソリューションの開発に関わっている。ここで言うソリューションにはデータフュージョン、カスタムオーディエンスセグメンテーション、ROI分析、そして特定の消費者行動の理解を深めるための新たなデータ統合手法などが含まれる。
新たなテクノロジーとビッグデータは、確実にメディア接触や商品購入の計測手法に革命をもたらしている。しかしここで注意したいのは、計測には限界があるという事実だ。 まずテクノロジーは、必ずしも計測を前提として開発されていない。そのため、ビッグデータには様々なバイアスが内在する可能性がある。例えば自宅でテレビを視聴する際、チャンネルを変える時にリモコンを操作する。リモコンのボタンが押されるとセットトップボックスに信号が送られ、信号からデータが発生する仕組みだ。ここで注目すべきは、発生したデータにはリモコンを操作した人物のデータは含まれない、すなわちリモコンのボタンを押した人物はデータ上、特定されないということ。偏ったデータの活用は誤った生活者インサイトの発掘につながり、ひいては不適切な意思決定を引き起こしかねない。 テレビに接続されたデバイスやSVOD(定額制動画配信)は、いつでも好きなコンテンツを選択できるという点で生活者にとっては非常に便利なサービスとなっている。しかしこれらのデバイスを所有しているアメリカ人は全体の60%に過ぎないため、これらのデバイスから取得されるデータはアメリカの総人口という母集団を代表していない。さらにテレビ環境全体を俯瞰するためには、これらのデータをテレビ計測指標と直接比較が可能な形で整備することが求められる。 ニールセンではビッグデータとパネルを併用することで、データポイントと実在する人物を一致させている。適切に設計されたパネルを利用することで、ビッグデータに内在する偏りを排除することができるからだ。例を挙げると、アメリカのテレビパネルを利用することで年齢、民族や年収別国内総人口という母集団を統計的に正しく表すことが可能になる。パネルから得られたインサイトをケーブル放送企業の協力によって収集されるケーブル視聴データと組み合わせれば、リモコンを操作した人物が特定される。パネルとビッグデータを併用するハイブリッド型の計測アプローチの採用により、ビッグデータの粒度や詳細を担保してデータの偏りが抑えられ、パネルの代表性が確保される。
AI (人口知能)のパワーが飛躍的に増加する中、インプットされるデータ整備の重要性はさらに高まっている。クリーニングされ、信頼性が高く、代表性のあるデータをAIにインプットしなければ、好ましくない結果が量産されるからだ。整備されていないデータは、好ましくない結果を生む。「十分」と判断されるデータですら、AIの世界では通用しない。
データサイエンティストの役割には、計測における偏りを減らすことも含まれる。ニールセンのデータサイエンティストチームには優れた統計学者に加え、数学や行動科学、化学工学、物理、教育、経済、計算機工学など多種多様な経歴を持つ人材が配置されている。様々な視点を確保することで、計測に対する多様な見解を尊重することが可能になるからだ。
ビッグデータの重要性が増すにつれ、金融、クライアントサービス、人材やメディア解析など様々な事業セクターがデータサイエンスの活用を強化し始めている。企業は統計手法やプログラミング、解析スキルといった基礎知識を持った多様な経歴の人材育成を通じて、より有効な意思決定を行うことができるようになる。 データの偏り、さらにはデータポイントから質の高いインサイトを発掘する上で必要なことを理解する新たな人材が増えれば、データサイエンスは今後さらに活用され、進化するだろう。
INDUSTRY NEWS
AdAge (アドバタイジング・エイジ誌) ニールセン、YOUTUBEモバイル視聴計測を30か国以上に拡大 インド、ブラジル、メキシコにサービス拡大することでProctor & GambleやUnileverなどグローバル企業の需要に対応 ニールセンは同社のDigital Ad Ratings(デジタル広告視聴率)を利用したYouTubeのモバイルアプリオーディエンス計測サービスを、新たに26か国で展開する。6月3日に発表された同社の声明によると、新規展開国にはインド、ブラジル、メキシコ、トルコが含まれる。 今回の発表は、大手グローバル企業Proctor & GambleのChief Brand Officer (最高ブランド責任者) Mark Pritchard (マーク・プリチャード)や元UnileverのChief Marketing and Communications Officer (最高マーケティング・コミュニケーション責任者)Keith Weed (キース・ウィード)が常々要求していた第三者によるクロスプラットフォームのデジタルメディア計測に対応するもの。 今後、媒体取引関係者はアメリカを含む世界34か国で利用されているYouTubeモバイルアプリオーディエンスの年齢、性別に加え、リーチやフリクエンシー、GRP を把握できるようになる。ニールセンのデジタルプロダクトリーダーシップ担当SVP、Amanda Tarpey (アマンダ・ターピー)によると、YouTubeをカバーするニールセンのDigital Ad Ratings は外部パブリッシャーの匿名化されたオーディエンス計測も行っており、これによって同一のオーディエンスが同一の広告に接触するフリクエンシーをコントロールすることを支援している。Digital Ad Ratingsはデジタル動画やその他デジタルフォーマットに対し、テレビ視聴計測で使われるGRPを適用して計測するサービス。 もっと見る
Daily Research News Online (マーケットリサーチ専門紙) 米ニールセン BASES、新サービスRetail Readyを発表 ニールセンのイノベーション部門BASESは新サービスRetail Readyを発表した。同サービスは消費財メーカーに対し、新商品発売に向けた小売店舗での棚スペース確保を支援する。BASESは 20万件のグローバルテスト、2,000件の検証に基づく成功規範のデータベースを利用して商品・サービスの予測を行う部門。ニールセンは2014年、コンセプトテストや予測ソフトウェアを専門とする企業Affinnovaを買収、この買収によりBASESのサービスに協業・最適化ツールが加えられた。 もっと見る
Bloomberg (ブルームバーグ) 米Amazon、人間の感情を読み取るウェアラブルデバイスを開発 アメリカのAmazon.com Inc.は、人間の感情を認識可能な音声起動型ウェアラブルデバイスを開発している。Bloombergが目にしたAmazonの社内文書によると、開発中のリストバンド型のウェアラブルデバイスは健康・ウェルネス製品という位置付け。同社のスマートフォンFire PhoneやEchoスマートスピーカーのハードウェアの開発担当グループLab126とAlexa音声ソフトウェアチームが共同で同製品の開発を進めている。 もっと見る
Daily Research News Online (マーケットリサーチ専門紙) ニールセン、Smart にオーディエンスターゲティング用データを提供 広告の収益化を支援するプラットフォームSmartは同社のアドテクスタックにニールセンのNielsen Marketing Cloudを統合、パブリッシャーによる運用型広告やダイレクトキャンペーンを通じた精緻なオーディエンスターゲティングを可能にする。Nielsen Marketing Cloudの統合により、パブリッシャーはニールセンが所有、運用するデータを対象に、AIモデリングテクノロジーによって強化されたターゲティング機能を利用することができる。もっと見る
MediaPost (広告メディア専門ニュースサイト) 米CBSとViacom、合併に向けた協議を開始 5月30日、アメリカの3大ネットワークの一角CBSとメディアグループViacomが再統合に向けた協議を再開するという報道により、両社の株価は午前の取引から上昇した。CBSの株価は3.2% 上昇して48.20ドル、Viacomの株価は4.6%上昇して29.03ドルとなった。 CNBCの報道によると、CBSとViacomは再び合併に向けた協議を開始する見込み。合併は両社の長年の大株主、National Amusementsによって望まれていた。CBSとViacomの担当窓口は、それぞれコメントを発表していない。1999年にViacomがCBSを買収したが、2006年1月には CBSがViacomから分離された。 もっと見る
Vulture (エンターテインメントニュース) 米NBC、競争が激しいニュース配信市場に参入 アメリカの3大ネットワークの1つ、NBC傘下のニュースチャンネルNBC Newsは 5月29日、コードカッターをターゲットとする新たな無料ストリーミングチャンネルNBC News Nowを開設した。配信内容は最新ニュース、インタビュー、そしてオリジナルの詳細レポートと毎時間のヘッドラインニュース。Today、Meet the Press、NBC Nightly NewsなどNBCの既存ニュース番組のコンテンツ流用が予想されるが、NBC News Nowはニューヨークを拠点とするスタッフ約20名が制作するオリジナルコンテンツに注力する。 NBCは長年、MSNBCというニュース専門ケーブルチャンネルを運営。対して新たに開設されたNBC News Nowは従来のケーブル・衛星有料放送に加入していない視聴者層、ストリーミング配信コンテンツを好む視聴者層をターゲットとする。 もっと見る
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