INSIGHT
ニールセン コンシューマーニューロサイエンスの事例
広告制作において「小さな違い」が「大きな意味」を持つケース
「信頼・信用」の訴求を目的とした広告の効果を計測することは、かなりトリッキーだ。なぜなら「信頼・信用」イメージは、無意識のうちにほぼ瞬時に形成され、同時に微妙な要因がバイアスを引き起こすからだ。
そのため、明示的な調査手法のみで広告効果を十分に計測することは難しい。このことを身をもって痛感したドイツの金融機関は、最新クリエイティブの効果や影響をより理解するために脳科学手法を採用した。
信頼感の訴求
同金融機関の最新テレビCMは、同社のブランドが提供する投資サービスの実績と強みを訴求する内容だった。テレビCMの狙いはオーディエンスの感情関与(エンゲージメント)の獲得、広告内容の記憶、さらにはブランドの「信頼感」の訴求の3点。
2つのテレビCM バージョンの効果を測定するために、同金融機関はニールセン コンシューマーニューロサイエンス (Consumer Neuroscience) に、異なる音楽が広告の「信頼感の訴求」に及ぼす影響を探る調査を依頼した。
ブランドの「信頼感」イメージの醸成には、多くの要因が関わってくる。広告のクリエイティブそのものやトーン&マナーに加え、音楽は特定のムードを伝達するのに有効とされている。しかしながら全ての音楽が広告クリエイティブに同じ影響を与えるとは限らず、特定の音楽に対するオーディエンスの反応を予測するためには信頼性の高い調査が必要となる。金融機関は過去の教訓に基づき、従来の自己報告形式の調査では微妙な変化が広告クリエイティブに与える影響が十分に計測できない可能性があると感じていた。
EEGを用いた音楽の選択
調査対象のテレビCMは自信をもって目標を達成し、偉業を成し遂げ、明るい未来に向かって羽ばたく人々を描くビジュアルで構成されていた。テンポが速く、ナレーションでは広告主である銀行が生活者の信頼に値するパートナーであること、共に明るい未来を切り開く役目を果たせることが強調された。課題として挙げられたのは、クリエイティブにマッチする音楽の選択。同銀行はモダンな印象を与える音楽と伝統的な音楽という2つのパターンを採用、音楽のみ異なる2つのCMバージョンのテストが行われた。
バージョン A: ドラムやシンセサイザーの音が際立った陽気でエネルギッシュ、モダンな音楽を採用。
バージョン B: Aに対し、クラシックな曲調。アップテンポだが伝統的な雰囲気で、クラシック音楽で使われる楽器による演奏。
調査はドイツにあるニールセンのラボにて、EEG (electroencephalogram)テクノロジーを用いて行われた。EEGを利用して広告に対する調査対象者の感情関与を秒単位で計測、さらには感情関与や記憶が高い広告のシーンを特定した。またEEGデータを分析することで、広告視聴が購入、サイト訪問や友人への情報拡散など、将来的な行動に結び付くかどうかを予測することも可能となる。効果が低いCMの演出要素を実査中に特定することで、改善すべきポイントが明らかにされた。バージョンAと Bはランダム提示とした。
無意識下のイメージを計測する調査手法
調査対象者にはテレビCMの視聴に加え、それぞれの無意識下でCM が伝達したいメッセージをどの程度訴求できたかという評価を行ってもらった。無意識下のメッセージ伝達評価では、一連のワードをスクリーンに投影し、調査対象者に提示した。投影されるワードは1秒単位で切り替えられ、提示されたワードには広告主が特定したキーワードが含まれる。キーワードは調査対象者に気付かれないようにランダムに組み込まれ、全ワードが複数回提示された。調査対象者を提示ワードに集中させ、調査目的を隠すために、調査対象者はワード提示中、赤いアルファベット文字を認識したらボタンを押すようにとのみ指示された。提示されたワードの内、広告主が指定した最も重要なキーワードは Vertrauen (ドイツ語で「信頼」)だった。
実査中、EEGにより各ワードに対する調査対象者の脳の反応がタイムスタンプと共に記録された。評価そのものは調査対象者にとって必ずしも興味深いタスクではなかったものの、対象者の脳は提示されたワードを自動的に読み取り、その意味を暗黙のうちに評価していたことが判明した。基準値を設定するために広告提示前にワード評価を行い、広告提示後に再度評価を行うことで、広告視聴が提示ワードへの脳の反応に及ぼす影響を計測した。
ワード評価において計測対象となったのは、P3と呼ばれる脳波。長年に渡り学術的な研究が行われてきた脳波で、P3に関する論文数は150万を超える。P3が計測された広告提示前後の変化は無意識での脳の反応を意味し、広告に対するワードの関連性を示す指標となる。CM提示後、特定のワードに対するP3反応が提示前よりも強くなった場合、CMはそのワードにより重要な意味を与えたと判断される。つまりCMは調査対象者の脳に対し、ワードの暗示的なイメージに何らかの影響を及ぼしたということだ。
ここからは、2つのCMバージョンの唯一の違いとなった音楽が広告の効果に与えた影響を見ていきたい。信頼感の訴求により貢献したのは、どちらの音楽だったのか?
広告クリエイティブとの合致
結果を見ると、伝統的な音楽がモダンな音楽を大幅に上回った。伝統的な音楽の方が視聴者の感情関与を獲得できていたが、感情関与の度合いはCM 全体を通じて変動していたため、どちらの音楽が適切かを判断する材料にはならなかった。言い換えれば、伝統的な音楽の方がCMの重要なシーンのドラマ性を高める演出に長けていた、ということだ。また伝統的な音楽はCM のフィーリングとの合致という点でも優れており、CMとの同調性によりビジュアルやナレーションの効果が高まったと言える。
さらには信頼訴求という点でも、伝統的な音楽がモダンな音楽を上回った。意識下でのメッセージ連想結果を見ると、モダンな音楽を採用したバージョンAは最低限の信頼訴求にとどまった。5 段階スケール評価でのスコアは1.5 で、ニールセンのメッセージコミュニケーションデータベースの下位30%に相当。対して伝統的な音楽を用いたバージョンBの信頼訴求スコアは3で、データベースの上位30%に食い込んだ。

安定とリスクのバランス
信頼訴求という点で伝統的な音楽が勝った理由は、複数考えられる。1例として、モダンな音楽で際立っていたシンセサイザーの音に比べ、クラシック音楽の演奏で用いられる楽器は暗示的に「息の長さ」や「安定」を連想させた可能性がある。伝統的な音楽がもたらしたCMの重要なシーンでの感情関与の高まりは、CMを通じたコミュニケーションにより大きな影響を与えたと言えるだろう。ちなみに感情関与の高まりは、「信頼できるパートナー」というナレーションや人々が握手をするシーンで顕著だった。

調査を依頼した銀行はニールセンの脳科学調査を通じて明らかになった結果や改善ポイントに大変満足し、最終的に伝統的な音楽を選択、オンエアに至った。
最後に、調査は「信頼感を醸成できるのはモダンな音楽ではなく、伝統的な音楽だった」という結論を導くには至らなかったことを明記したい。調査を通じたラーニングは、広告クリエイティブで音楽を採用する場合、慎重にマッチングを行う必要があるということだろう。全ての音楽が広告クリエイティブに同じ効果をもたらすとは限らないため、広告が視聴者と感情的な結びつきを醸成し、広告主が意図するメッセージを伝達することで狙った行動を引き起こすためには、信頼できる調査を用いて音楽が広告に与える影響を計測することが重要となる。
INDUSTRY NEWS
Wall Street Journal (ウォールストリート・ジャーナル紙) 米Sinclair、Tribune 買収でアドレサブルテレビ広告に向け強化 最近 Tribune Mediaの買収を発表したアメリカ大手テレビ放送企業、Sinclair Broadcasting Groupは、買収を通じて複数の潜在利益を手に入れた。まずは規模の拡大によって、ケーブル放送局から今までよりも高い受託放送料を得ることができるようになること、そして広告主に対し魅力的で幅広い広告メニューを提供できるようになる。また一部メディア企業の役員の談話によると、アドレサブルテレビが実現された暁にはより多くのアドレサブルテレビ広告の販売が可能になると思われる。 もっと見る
アメリカの大手テレビネットワークCBSの最高経営責任者(CEO)、Les Moonves (レス・ムーンヴェス)は11月3日午後(現地時間)に行われた同社の投資家向け収支報告の際に、2017年のアップフロント交渉でニールセンのTotal Audience Measurementが重要な役割を果たすことを期待するコメントを出した。「トータルオーディエンス視聴率は、CBS が放送する番組がリーチする視聴者数に対する正当な対価を得るための重要なステップとなる。視聴習慣の変化を踏まえ、今後は大きな対価が期待できるだろう。」 もっと見る
The Australian Financial Review (ビジネス・金融・投資ニュース) デジタルとテレビをまたぐ共通計測サービスの必要性 ニールセンのプロダクトリーダーシップ担当社長、Megan Clarken (メーガン・クラーケン)のインタビュー記事。広告主が自信をもって広告キャンペーンへの投資を判断するためには、Google、Facebookなどのデジタルメディアやテレビ放送メディアをまたいだ第三者によるオーディエンス計測が必要、と同氏は語る。1997年からデジタル指標の開発を指揮してきた同氏は、ニールセンが開発しようとしている共通オーディエンス計測に対し、かつてはデジタルや従来のメディアから開発を押し戻す動きがあったとコメント。しかし、「デジタル広告費用が従来のテレビ広告費用を上回り始めていることにより、過去 1年は様々な変化がありました。それに伴い、アカウンタビリティや透明性、さらにはデジタルとテレビという異なるメディアの直接比較を可能にする計測を求める声が大きくなっています。」 もっと見る
NBC News (最新ニュース・動画) ニールセン最新レポート - 米で急速に拡大するアジア系アメリカ人女性の購買力 ニールセンが5月8日(現地時間)に発表した第5回 AAPI (アジアパシフィック系アメリカ人)年次消費者レポートによると、アジアパシフィック系アメリカ人女性の購買力や影響力は「急速」に拡大しており、今後も飛躍的に伸びることが予測される。ニールセンの戦略コミュニティアライアンス担当 VP、Mariko Carpenter (マリコ・カーペンター)はNBC Newsに対し、「年齢が若く、デジタルにも精通しており、新たな製品・サービスを好む傾向にあることから、アジア系アメリカ人女性は、まさに未来の消費者像と言えるでしょう」とコメント。「平均年齢 36歳のアジア系アメリカ人女性は自力消費が可能なステージに到達、購買力が高まっているアジア系アメリカ人女性全体に対し経済的な影響を及ぼしています。特に旅行、美容、日用品カテゴリーにおける影響は顕著です。」 もっと見る
VR Journal (VR 業界ニュース・解説サイト) ニールセン、VR が非営利団体のマーケティングや資金集めに新たな機会をもたらす可能性を指摘 ニールセンは最新レポートを通じて、VR (Virtual Reality、仮想現実)は全世界のあらゆる非営利団体のマーケティングや資金集めに新たな機会をもたらす可能性があると指摘した。ニールセンのラボリサーチ担当ディレクター、Harry Brisson (ハリー・ブリッソン)は「今回の調査は、3つの疑問に対する答えを発掘するために行いました。具体的には VR オーディエンスのチャリティに対する行動プロフィールを理解すること、従来の広告を比較対象とした360 動画の効果を把握すること、さらには寄付やその他チャリティ活動を促進するコンテンツの特徴を明らかにすること」、とコメント。 もっと見る
Marketplace (ビジネス・テクノロジー・エンターテインメントニュース) 家庭外テレビ視聴者数の計測 今年も地上波テレビネットワークが広告主に対し、秋から始まる新シーズンのプライムタイム広告枠のプレゼンを行うアップフロントの季節が到来した。長年、バーやレストラン、空港や病院などの家庭外テレビ視聴者数の計測方法を模索してきた ESPN は先週、広告主に対し家庭外テレビ視聴者数を発表した。ESPN のグローバル調査・アナリティクス担当 SVP、Artie Bulgrin (アーティ・バルグリン)は「20年前、ESPN はニールセンと共同で家庭外テレビ視聴計測を開始しました」と語る。同氏によると、家庭外視聴者数は 1日あたり数百万人に上る。「ESPN にとっては大きな数字です。商業施設でテレビが視聴される場合、ESPN が視聴されている可能性は十分にあります。」 とはいえ、家庭外テレビ視聴者数の計測に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。 もっと見る
Variety (エンターテインメント業界誌) 米 ESPN、テレビやモバイル、デジタルスクリーンを網羅するライブ視聴者数を反映した広告販売を開始 The Walt Disney Company と the Heart Corporation が共同で経営するスポーツテレビチャンネル、ESPN は激化する広告販売競争への対応策として、テレビ以外のスクリーンにおける番組視聴者数の計測に乗り出す。5月16日(現地時間)、ESPN は広告主に対し同チャンネルのコンテンツをリアルタイムで視聴するトータルオーディエンス数という新たな指標に基づいた広告販売の開始を宣言することが予想される。従来のテレビ視聴方法にとらわれないデジタルオーディエンスの収益化に躍起になっているテレビネットワークにとって、ライブ視聴者数の計測は死活問題となっている。また、ライブ視聴者数の特定はアメリカの広告業界にとっても大きな意味を持つ。 もっと見る
Financial Times (フィナンシャル・タイムズ紙) 米Facebook、過去最大のテレビ対抗策を発表 アメリカ大手SNS の Facebook は 米大リーグ機構(MLB)とライブ配信契約を締結、今シーズン毎週金曜日に行われる 20試合をライブ配信する。MLB のライブ配信は、同 SNS にとって史上最強のテレビ対抗策となる。テクノロジー企業によるライブスポーツコンテンツのオンライン視聴獲得に向けた動きは活発化しており、主な獲得対象はケーブルテレビに加入していない視聴者だ。 もっと見る
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